なぜ褥瘡を石鹸で洗浄したがるのか?
それは傷と傷口の周囲に付着していてる汚れなどが褥瘡の治らない要因だと考え、何かひと手間(石鹸洗浄)かけて治療することが必要だと思っているからです。
現在、手元にある2015年の褥瘡のガイドラインには、
【CQ8.6】褥瘡治癒促進のために、褥瘡周囲皮膚の洗浄は有効か。
【推奨文】弱酸性洗浄剤による洗浄を行ってもよい。
【解説】創周囲皮膚には、水に不溶性のたんぱく質や脂質などの汚れが含まれているため、健常皮膚と同様に洗浄する必要がある。(中略)皮膚の生理機能を正常に保つことが創周囲からの上皮化を妨げないとするならば、石鹸より弱酸性の洗浄剤、さらに皮膚保護成分配合の洗浄剤を選択することが望ましいといえる。なお、褥瘡周囲皮膚の洗浄時に創内に入った皮膚洗浄剤は、生理食塩水や微温湯などの創部用の洗浄液で洗い流すとよい。以上より、褥瘡治癒促進のために、褥瘡周囲皮膚は弱酸性洗浄剤で洗浄を行ってもよいとして推奨度C1とした。
ここ10年程、石鹸を泡立てて創周辺皮膚を洗うのが主流になっています。
こんもりと泡立てた石鹸を創の周囲にのせて洗うのですが、書籍や褥瘡関連のサイトをみると、創内にも泡立てた石鹸を使用して洗浄している様子が見受けられます。界面活性剤で洗うという行為によって細胞が再生したり、痛みを伴わなければ取り立てる必要はないと思います。しかし、当クリニックに逃げてくる患者さんのなかには、石鹸洗浄によって苦痛を訴える方が大半をしめています。その声を目の当たりにすると、ガイドライン通りに手間をかけて善意で行っている治療が苦痛を与えていることを知って欲しい気持ちになります。褥瘡ができる患者さんは、自ら痛みを訴えることや痛みを感じることのない方が多いため実感が湧かないと思いますが、実際には多くの苦痛を与えているのです。
ガイドラインの解説には「創周囲皮膚には、水に不溶性のたんぱく質や脂質などの汚れが含まれているため、健常皮膚と同様に洗浄する必要がある」と記述されていますが、創周囲の不溶性タンパク質や脂質は流水で流すだけである程度洗い流されますし、たとえ少し残っていたとしても全身状態によっては湿潤環境によって上皮化しています。
また「皮膚の生理機能を正常に保つことが創周囲からの上皮化を妨げないとするならば、石鹸より弱酸性の洗浄剤、さらに皮膚保護成分配合の洗浄剤を選択することが望ましいといえる」とありますが、当クリニックを受診している乾燥肌の患者さんのなかには、毎日ボディーソープで洗うことによって皮膚の油分がなくなり、それにより乾燥肌を招いている方が多くいます。その方には身体の汚れは水溶性でありお湯で流すだけで落ちるため、洗浄力の強いボディーソープは使用せずにワセリンで油分を補うようお話すると徐々に肌の状態が整ってきます。界面活性剤で洗うことはかえって皮膚の生理機能を正常に保てなくさせているのです。褥瘡周囲の浸軟した皮膚こそ、刺激となる界面活性剤は使用せず流水で流すだけにし、その後は皮膚保護のために撥水性のあるワセリンを塗るだけで十分です。
褥瘡とは寝たきりの方や脊髄損傷で痛みを感じない方など、長時間同じ箇所を圧迫したことによってできる皮膚潰瘍です。褥瘡が治らない要因を石鹸や亜鉛などに持っていきがちですが、大切なことは、褥瘡が治らない原因(全身状態によるものか?持続的な圧迫によるものか?治療によるものか?など)を総体的に判断するべきだと思いますが、皆様はどうお考えでしょうか?